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2017年2月14日 (火)

政策入札における消防団活動優遇制度は妥当か

 愛知県が消防団活動に協力する企業を入札で優遇すると発表した。これは「政策入札」と呼ばれるシステムで、価格以外の要素も入札で考慮できるというものである。官製ワーキングプア問題に携わる識者の間では、専らコスト削減が人件費を標的としないように配慮した企業を優遇できる制度と認知されているが、実際には幅広い要素を考慮することが可能な仕組みになっている。
 消防団活動は尊い。そのこと自体に争いは少ないであろう(操法大会や行進のための訓練負担、報酬や会計の曖昧さなど課題がないとは言わないが)。しかし、政策入札なら他に過労死・過重労働の防止やワークライフバランス等も考慮の対象にすべきだ。共同体を守るという観点からは、予備自衛官を採用して訓練等に便宜を図っている企業に対しても考慮要素とされてしかるべきであろう。
 また、入札優遇を受けられるのはあくまでも企業側だが、企業側が従業員の消防団活動に配慮するにあたっては、家庭生活等の他の要素を犠牲にしないような配慮がなされてしかるべきであろう。消防団活動では操法大会前ともなれば早朝や夜間に練習に駆り出され、休日も訓練があり、地元の祭礼などでは警備も担当する。報奨金が出るとは言ってもほとんど無給に近い(それすら消防団が通帳保管してプールし団員への直接払を行わないことが少なく無い)。
 入札での有利な取り扱いを期待して、使用者がやりたくもない労働者を「人身御供」にする可能性がある。消防団側も会社が不利になるぞと申し向ける勧誘をやりかねない。いくら善意で組織される団体と言えども、相手が弱ければ態度が豹変することがまま見受けられるのは、NPOやユニオンがモンスター化する例をみても明らかである。この制度は、会社のために労働者が犠牲を強いられ搾取されるリスクが高い。
 仮に企業側が命令で入団させたり、訓練に動員したりということになると、これはもう業務命令で行っていると考えるしかない(現在でも中小企業では地域の有力者である経営者の指示のもと、従業員が半強制的に入団させられているという問題が指摘はされているが)。そうなれば賃金支払いの問題が発生するのみならず、企業から消防団に対して労働者派遣や法で禁止されている労働者供給が行われたという構成すら可能となる。動員される労働者のみならず、企業や消防団もリスクを負うことになるのは言うまでもない。
 実際に消防団活動をしている人たちから話を聞いてみると、確かにやりがいそのものは感じているが、同時に「義理だから仕方がない」という声が非常に多かったのが気になるところで、「強制された自発性」は自発的とは言えない。
 使用者が「強制はしていない」「労働者の奉仕だ」と言ったとしても簡単に信用してはならないのは言うまでもない。政策入札が決して労働者の福祉にばかり活用されるものではないことだけは認識しておく必要がある。

 また、公務関連労働の問題として見た場合、善意の「ボランティア」が必ずしも良い結果をもたらすとは限らない。タダあるいは最低賃金以下で稼働する者が出てこれば、本来これを業務として行っている公務員の人員削減や処遇の悪化につながりかねない。財政難に悩む自治体側としてはタダで済むものには「飛びつく」傾向がある。
 そもそも、政策入札自体制度として十分に機能しているのか怪しいもので、自治体関係者の間では「金額をひっくり返すのは簡単ではない」という。つまり、いくら政策入札で考慮するとは言え、価格の安さには自治体側も抗いがたいということだ。加えて、政策入札制度そのものが実質的に企業側の自己申告で運用されており、本当に企業が配慮しているのかは自治体すらわからない。また、不明朗な条件を付す政策入札が談合の温床になるのではないかと言う点は制度が作られた当初から指摘されているところである。
 広く企業の社会貢献活動を評価するシステムを構築し、その一環として消防団活動への支援を評価するのであれば何の問題もない。しかし、はじめから消防団への動員だけを狙って制度を作るのでは、かえって後々禍根を残すことになるのではないか。

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