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2015年12月27日 - 2016年1月2日

2015年12月30日 (水)

社会保険労務士に対する懲戒処分を含む処分と処分の範囲

 「社員をうつ病にして解雇する方法」と称して、ブログに不適切な記事を多数掲載していた愛知県内の社会保険労務士が、愛知県社会保険労務士会によって「会員資格停止3年と退会勧告の処分を受けた」という報道がされている。今日の中日新聞に記事が載り、ラジオでも報じられていた。

 今回の処分は「職業倫理」を問題にした処分としては、極めて重い。これより重い処分は「5年以内の会員資格停止と退会勧告の併科」しかないから、違法行為の実害までは確認できなかった今回のようなケースでは、事実上最高レベルの処分であったと言える。

 このようなしかしながら、この処分が報道されたところ、「資格はく奪にしろ」「社労士会は仲間を庇っている」「こんな甘い処分しかしないのなら、厚生労働省は社会保険労務士の制度を廃止すべきだ」など、ネット上では「軽すぎる」として非難の声が上がっている。いずれも、怒りとしては分かるのだが、意見としては失当であろう。

 このような声が出る原因は、言うまでもないが弁護士会が全ての処分を行う弁護士に比べて、社会保険労務士の処分制度が分かり難いからである。

 社会保険労務士の処分は実質的には「二段構造」になっている。社会保険労務士法の定める処分は「戒告」「一年以内の業務停止」「失格」だが、この処分ができるのは厚生労働大臣である。

 これに対して、所属社会保険労務士会が行うことができるのは、あくまでも「会員資格」としての処分に留まる。最高が「退会勧告」であるのも、社会保険労務士として業務を行ったり名乗ったりするのはあくまでも「会に所属していること」であるため、もし「除名」を認めてしまうと、実質的に「失格」処分を社労士会が行えるという状態になってしまうためである。

 なお、「退会勧告」はあくまでも「勧告」であって、退会を強制することはできない。「会員資格停止」についても、会員としての資格が停止されるだけなので、業務停止のように社会保険労務士業務を行うことができなくなるというわけではない。同業者からの信用は失墜するだろうが、社会保険労務士を名乗り続けることは可能である。

 なお、「「退会した場合はその会が所在する都道府県では社労士として活動できなくなる。」という記事を書いた新聞社があったが、これは厳密には誤りである。社会保険労務士はいずれかの都道府県社会保険労務士会に登録していることが必須なので、退会した場合は県内だけでなく日本国内で社会保険労務士の業務を行うことはできなくなる。業務どころか、社会保険労務士と名乗ってもいけない。

 現実的には、自治組織である所属社会保険労務士会の処分レベルを厚生労働省は尊重して処分を行うであろうし、会員に対する処分を行った場合にはその旨は厚生労働省に報告される。しかし、社労士会の処分と大臣の処分は形式的にはそれぞれ別個独立のものとして行われる。

 今回木全美千男社会保険労務士に対して行われたのは「愛知県社会保険労務士会による会員資格に関する処分」であって、厚生労働大臣の行う懲戒処分に付されるとすればこれからということになる。

 会の処分が「終局判決」と誤解されるのは仕方がないし、できる処分の限界を知らなければ軽すぎると思うのは当然であろうが、この「二重構造」があまり周知されていないことも、誤解を招く大きな要因となっている。

 なお、弁護士会が懲戒権を持っている弁護士の方がむしろ「特殊」なのであって、司法書士や税理士など一般的な士業の懲戒処分は監督官庁が持っていることが普通である。

 ※本稿は私見であり、所属している会や支部の公式見解ではない。

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