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2015年12月20日 - 2015年12月26日

2015年12月24日 (木)

貧困の拡大による「経済徴兵制」は機能するか

 貧富の格差の拡大、貧困層の増大に伴い、こうした人々を自衛隊に勧誘することを「経済徴兵制」として非難する向きがある。特に、戦争法反対派は「集団的自衛権を行使するようになれば志願者は減るから、半強制的に充足する必要がある」と考えているようである。そこで、「経済徴兵制」なる言葉を作り出したのだろう。

 確かに、アメリカではより高い仕事、学歴を求めて従軍する例は少なくない。アメリカの歴史自体、マイノリティーが「軍歴」によって尊敬を集め、地位を高めていく歴史であった。南北戦争では多くの黒人が北軍に志願し、それが南北戦争の転機となった。20年ほど前に公開された映画「グローリー」は正規の黒人連隊として最初に組織されたマサチューセッツ第54連隊を描いたものである。

 日本人とても無縁ではない。アメリカ社会で日本人の地位が向上したのは第二次世界大戦に多くの日系アメリカ人が従軍し、戦場で勇気を示したことが大きい。442連隊戦闘団の活躍はよく知られており、連隊で赫々たる武勲を上げたダニエル・イノウエ上院議員は日系アメリカ人で最も高位となる上院仮議長(アメリカの上院議長は副大統領の兼務であり、副議長と言う職は存在しないため、上院仮議長が上院議員としての最高位であり、大統領継承順位は副大統領、下院議長に次ぐ)にまで昇っている。

 だが、日本で上手くいくかと言うと、私は否定的な見方をせざるを得ない。貧困層を少々のお金で釣ってみたところで、来る人間のレベルが低ければむしろ自衛隊の運用にとってはマイナスである。

 今の自衛隊は銃を持って突撃するよりも、高度な判断を求められる職種の方が多い。また、実際に武器を携帯して紛争地で活動するとなれば、今まで以上に現場で綿密な判断が必要になる。つまり、警備活動ですら「専門的な兵士が担うべき仕事」になる。

 アメリカのように、軍歴・学歴がステップアップに重要な役割を果たす国であれば、奨学金取得のために従軍するのは不合理な選択ではないが、我が国では学歴(22歳~23歳あたりの新卒時のものを除く)や軍歴はキャリア形成にほとんど意味をなさない。

 しかも経済困窮者を自衛官の主要な供給元にしてしまえば、景気の動向によって今まで以上に志願者の質と量がが左右されることになる。教育体制の問題もあるので、徴兵型の方式は得策とは言えない。

 更に言えば、自衛隊の人手不足は戦争法と関係なく、慢性的なものである。確かに志願者の増減はあるが、一定レベル以下の者はやはり採用していない。志願者の中から相当に絞って採用しているわけで、自衛隊の任務の高度化から考えればこの傾向はますます強くなろう。

 「経済徴兵制」は経済学のモデルとしてならば興味深いところだろうが、自衛隊にとっては魅力的な制度とは言えず、概念はともかく実質的には機能しないのではないかと考えられる。

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