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2015年7月26日 - 2015年8月1日

2015年7月31日 (金)

デモに参加すると就職に不利になるのか?

 「デモに参加すると就職に不利になる」という声がネット上に飛び交っている。最初にこのことを言い出したのは行橋市議会議員の小坪慎也氏のようだが、本当にそうなのか。デモ支持者を中心に「不利にはならない」「差別は違法だから、そのような会社には行かない方がいい」という指摘もある。

 まず、確実に言えるのは「有利になる」ということはあまり考えられないという事である。反骨精神溢れる若者を求めている会社が全く無いわけではないが、大手企業では会社内での政治的言動を就業規則で明確に禁止している企業も少なくなく、政治活動は好意的には捉えられないのではないかと思われる。

 確かに、「団塊世代は学生運動の経験者が普通に就職できた」「出世した人もいる」という指摘は正しい。世界的企業「ハツシバ」の会長に登り詰めた島耕作も、部長編では「私も70年安保組です」と毛布を持って学校に泊まり込みをしたことを懐かしがるシーンがあるところから見て、学生運動の経験者であろう(もっとも、最近の「ヤング編」ではノンポリと撮れるシーンが見られるが)。

 しかし、島耕作をはじめとする団塊世代が就職する時期は好景気であった。大量採用がなされる一方、あの頃は有能な学生はおおむね学生運動の経験者であり、ノンポリばかりに拘っていては必要な人数を採用することが出来なかった。学生運動の経験者にとっては幸運であったと言えるだろう。

 しかし、現在はそうではない。いくら新卒の就職が有利になってきたとは言っても、就職活動はまだまだ厳しい。企業側も、「妥協してまで採用するつもりはない」と言い切るところが多く、採用枠が増えたからと言って安心はできない。団塊世代の就職の時期とは、決定的に状況が異なっている。

 また、デモに参加している学生は増えているとは言っても圧倒的に少数派である。また、採用する側も団塊世代はほぼ引いて、バブル時代に採用されたノンポリ世代が実務の中心になって久しい。組合活動すら「面倒」と感じていたような世代であるから、それよりも左翼的な活動に「共感」していると考えるのはちょっと難しい。

 加えて、現在の採用活動は「人を絞って採用する」ことが徹底してきていること、更に採用担当者も「成果主義」を意識しなければならない。つまり、その後に問題(企業内の論理で見ての話だが)を起こすような人を採用すれば、採用した担当者の評価も下がることになる。このような状態では、「誰もが納得するような人物」ばかりに内定が集中するのは当然で、個性は宝ではなく「リスク」でしかなくなる。デモなど政治活動への参加は「リスク」と考える採用担当者が多いのではないか。

 更に言えば、シールズがいくら政党とは無縁と言い張っていたとしても、共産党や新左翼と親和性は高いと見られている。当然、反安保法闘争には左翼系の組合も多くが参画している。当然、交流が生まれているだろうし、そのような「意識の高い」学生が影響されて組合活動や内部告発をするのではないかと危機感を持つのは当たり前だろう。最近の企業側は、組合全般に拒否反応を示すことが多い。企業内組合のある会社はともかく、企業内組合が無いような企業では尚更である。

 確かに、法律論では「思想で差別をするのは違法」ということになる。しかし、それを採用される側が立証することは極めて難しい。大抵、企業側は本当に首にしたい理由以外に、適当な理由を用意していることが普通だからである。例えば、派遣先に指示されて派遣労働者を首にするような場合、「派遣先に言われたから」と言ってしまえば違法になるが、「派遣先の体制の変更」と言えば、派遣労働者は何も言えなくなる。

 「三菱樹脂事件」は、あくまでも採用内定の取り消しが問題になっていた。内定取り消しだったからこそ、理由を示してどうこうという話になったわけで、内定以前であれば理由を示すことなどあり得ない。つまり、企業側がデモ参加を理由として採用しないことにしたとしても、採用担当者が資料と共に内部告発でもしてくれなければ、学生側は知る由もない。また、仮に内部告発で差別の証拠が出てきたとしても、「あくまで使用者には採用の自由がある」わけだから、採用を強制するのは簡単ではない。

 さすがに、個々の学生の経歴を探偵を使って調べるという事は難しいので、そこまでは企業側もやらないだろう。しかし、SNSやブログなどを検索し、素性を調べるというのは採用の早い段階で行っているのではないか。実際、「リスク管理」として取引を求めている相手先の会社や経営者の情報をネット上で詳細に検索して検討するのは当たり前に行われているし、むしろそうしたことをしていない方がリスク管理としては失格とされている。同じことを採用試験段階の学生に対して行う背景は十分にある。

 大手企業は「誰もが納得するような人材を取りたがる」ため、デモ参加の経歴がマイナスに働く可能性は否定できない。しかし、こうした学生が無能と言うわけではないし、全員が極左思想に染まっているわけでもない。

 「三菱樹脂事件」で原告となった高野氏は十年以上に及ぶ法廷闘争を戦い抜いて三菱樹脂に出社したときは、髪の毛が真っ白になっていた。あまり知られていないが、高野氏はその後三菱樹脂では部長、最後は100パーセント子会社であるヒシテックの社長にまで登り詰めている。大卒社員の場合、大企業で部長になれば大出世である。さらに子会社の社長にまでなっているのだから、同期に比べて十数年遅れてキャリアを積んだことも考えると、会社と争ったことは出世に大して影響せず、三菱樹脂側も高野氏を存分に活用できたと言えるのではないか。

 大企業がデモで採用差別をやったとしても、中小企業にとっては有能な人材を採用するチャンスになる。

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