山本太郎参議院議員直訴事件
天皇陛下に対して民の窮状を訴えるために直訴状を提出する、明治時代には足尾銅山鉱毒事件等での田中正造衆議院議員の例があるものの、平成の時代に本当にこんなことをする人が出てくるとは驚いた。山本太郎参議院議員が園遊会において天皇陛下に直接手紙を手渡すという事件を起こした。原発労働者等の問題を陛下に知っていただきたいと山本議員は主張している。
残念ながら、「直訴」は時代錯誤だ。そもそも、天皇は君主であるとしても憲法上政治的な決定権はもとより、発議する権利すら持っていない。明治時代には名目上であったとしても「統治権の総攬者」であったが、今やその名目すら持たないのである。しかも、国民と国家の統合のための象徴である以上、特定の勢力に肩入れすることもできない。無論、陛下として人間であるから想いはあるだろう。しかし、それを表沙汰にすることは許されないし、それができないことをよく自覚されているのは言うまでもなく陛下ご自身であろう。
今回の山本議員の事件は、憲法上の天皇の地位と職責を誤解した上、天皇陛下を政治的に利用しようとした行動と取られても仕方がない。余りにも軽率であったと言える。
そもそも、天皇陛下は山本議員から直訴を受けなくとも問題の多くは既にご存じであろう。天皇は直接政治的なメッセージを発することはできないが、「おことば」の中ににじみ出てくるものがある。「おことば」の中に、しばしば弱者に対する気遣いや思いやりを感じることができる。最近では非正規労働者など経済的弱者に対して配慮するお言葉があったが、非正規労働者に関する問題を陛下が「理解」されていなければ配慮するような発言など出てくるわけがないからである。