21日に投開票が行われた参院選は事前の予想通り自民党の圧勝に終わった。これにより、衆参共に与党が多数を獲得することとなって長年の「ねじれ国会」は解消された。「決められない政治」が問題になっていたわけだから、衆参とも多数を与えることでスピーディーな意思決定がなされることを多くの国民が期待しているのではないかと思われる。
ただし、これにより政府与党の暴走を止めるものは何もなくなった。多数を獲得したということは、言論による反対派の説得を行うまでもなく数で議論を封殺できるということである。国民は確かに決められない政治に対して批判はしていたが、だからといって国会での議論そのものが不要だという意見は少数派であろう(国会での議論そのものが無駄であるという意見が根強くあるのは事実だが)。
アベノミクスは報道では景気回復につながっているような感があるが、市民生活においては物価は上がり、賃金は下がり続け、雇用も不安定さを増すなど決して明るいものではない。アベノミクスは「漠然とした期待」「ぼんやりとした期待」のレベルに未だ留まっていると言うしかないが、そのイメージは「少なくとも民主党よりはまし」に見えたのではないか。
ただし、「決められる政治」が実効性のあるものになるという保証は全くない。最早「異議申し立て」は簡単ではなくなる。暴走を始めたら止めるものは誰もいなくなる。ここまで自民党が多数を占めた以上、自民党政権が失政を犯したらその治療は容易なことではない。
自民党の好調に比べて民主党の没落ぶりは見ていて気の毒になるほどだ。もともと「政権交代」を掲げて勢力を結集しただけに、目標を見失った感がある。かつて民主党を支持しながら失望した人々のうち、ネオリベラリズムを支持する層はみんなの党と維新に流れ、左派層は明らかに共産党に流れている。共産党の議席伸長は単純に投票率低下により組織政党が有利になったからという理屈だけでは説明できない。鉄の結束を誇る共産党も党員は減少し資金源である赤旗は売れず、豪華な党本部を作った一方で専従の間にまで不満の声が出ていると聞いている。こんな状況だから、組織政党の強みで議席を伸ばしたとは考えにくい。民主党は結果的に旗色の判然としない曖昧な政党になってしまったわけで、「分かりやすい政治」を求める層が原理主義的なみんなの党・維新・共産党に流れるのはもっともなところである。
ともかくも、向こう三年余りの体勢は決まった。今も昔も「選挙前」にはいい顔をしておいて、終わったら本音を出すというのが政治家のやり方で、特に自民党の常套手段である。某県の自民党の候補者は、憲法改正には「賛成」と書いていたが賛成している中身は曖昧の上、年金やTPPや労働問題については軒並み「分からない」「中立」「無回答」であった。新体制がどのような方向に進んでも、これなら公約違反にはなるまい。いずれにせよ、国民は「うっかり一票がっかり3年」にならないことをただ祈るしかない。