物価は上がっても賃上げはない
安倍総理の経済財政政策に対して強い影響力を持つイェール大学の浜田名誉教授が中日新聞のインタビューに応じた記事が掲載されたが、その内容は衝撃的なものであった。一言でいえば「大企業が生き残ることが必要だから、賃上げには期待するな」というものである。
アベノミクスではインフレを誘発し、それによって経済規模を拡大させることで雇用を拡大し賃金を引き上げることで国民生活を向上さることが喧伝されていた。原発推進やTPP参加なども、すべてこの戦略のための行動である。当然ながらインフレが起きれば実質的な賃金は目減りする。したがって、賃上げとセットであることが国民を納得させる唯一の方法であった筈だ。
しかし、浜田名誉教授は企業に体力を付けさせる必要があることから、賃上げを期待するなという趣旨のことを述べている。安倍総理の指南役がこんなことを言っているのだから、本当に政府与党が賃上げを含む労働者の権利向上の事を考えているのかますます怪しくなってきた。派遣の期間制限や直接雇用既定の撤廃や解雇の緩和、労働時間規制の緩和、最低賃金制度の廃止、社会保険の適用除外の拡大など、それぞれもっともらしい理由づけはされているが、本当にこれで大丈夫なのか私は極めて疑わしく思っている。
確かに、理屈の上では国内経済は活性化し、拡大した経済は雇用を吸収し賃金も上昇することができる筈である。しかし、ここ十数年こうした路線を歩んできた結果生まれた底辺層の労働者とここ一年ばかり共に仕事をしてきた私としては、こうした路線に期待を持つことはとてもできない。
賃上げ要求にしても、年収1000万円を2000万円にする話ではない。時給1010円を1020円にできるかどうかという話である。残念ながら、非正規労働の現場では労働者は皆おしなべて自分の前途に期待はしていないし、幸福な家庭生活を含む将来像を描けている者はほとんどいない。正規雇用への登用や、賞与や各種手当などの支給される立場すら、現実には夢でしかない。彼らにとってのささやかな期待は、若干時給が上がることで、一杯の飲み物を追加購入できることくらいだ。こうしたささやかな期待すら奪うようでは、どうして政府与党の経済政策を信用することができようか。
経済政策を立案・遂行する者は、表向きに出てくる数字だけでなく、是非現場を見てもらいたいものだ。これではアベノミクスは誰のための、何のためのものか理解することすら難しい。無論、大企業生き残りのため底辺労働者を見捨てるというのも有力な選択肢の一つである。それならば、是非明言していただきたいものだ。