年金給付の「引き下げ」について
日本の公的年金制度では、物価などの経済状況に応じて年金額を改定する仕組みが取り入れられています。これは、専らインフレの時代に物価の上昇に応じて年金額を増やしていくものでした。見た目には増額されることになりますが、経済社会の中での価値は変わらないと言うことになります。これは年金額の計算においても同じで、過去の保険料がダイレクトに年金額には繁栄しないことになっています。もし、このような仕組みを取り入れなければ、「月給3万円」や「100円亭主」の時代に納めた保険料がそのまま支給額に反映されてしまい、年金はひどく安いものになってしまうでしょう。
長い間日本の物価問題はインフレでしたが、ここ十年ほどはデフレの方が問題になっています。これは、経済の低迷に続いて消費者が安さを求め、安い品物を供給するため人件費が圧縮されて賃金が減り、購買力を失った労働者が更に安いことを求めると言う負のスパイラルに陥ったためです。こうなると、年金額も従前の額では物価に対して高いものになってしまいます。
本来ならば、年金額は物価に応じて引き下げられるべきものでした。しかし、老人層にしてみればいくら物価が下がり実質的な価値は変わらないとは言われても、「手取り」が減ることに対する抵抗感は強いものがありました。そして、老人層は大切な票田ですから、老人に媚び諂うかたちで、年金のマクロ経済スライドが凍結状態にされたわけです。
この結果、年金の給付水準は実質的に上がったことになり、その負担は現役世代が負う事になりました。これは、世代間の公平と言う観点から好ましいことではありません。年金額の物価に応じた引き下げは、制度維持のため必要な措置と言うべきでしょう。