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2011年11月6日 - 2011年11月12日

2011年11月11日 (金)

TPPで「社会保障の聖域化」は不可能

 野田総理は国会で「TPPに参加しても社会保障制度には手を付けない」という表明をされています。しかし、TPPに参加するならばそれは土台不可能です。

 そもそも、社会保障制度はそれが健康保険制度にしろ年金制度にしろ、労働制度と密接不可分な関係にあります。言うまでもなく、厚生年金に加入するには労働者である身分が必要であり、健康保険についても同じです。国民年金や国民健康保険など、労働保険に含まれない社会保険制度は存在していますが、その給付が極めて不十分なものであることは現状でもよく指摘されており、屋台骨はやはり厚生年金と健康保険です。

 1990年代以来、「自由競争」の美名の元労働者保護規制が続々と撤廃されてきた事に思いを致す時、労働者保護政策の一環たる厚生年金や健康保険制度が温存されるとは思われません。まして、TPP推進派たる財界は、元来社会保険制度で保護される労働者の範囲を狭めようと努力してこられました。若年層の年金不安の原因の一端はここにあります。

 まして、アメリカの保険業界が日本市場を狙っています。「公的」年金や「公的」健康保険制度そのものが、「民間の参入を阻害している」と言われればそれまでです。外見的には、似たようなことを民間企業でもやれないことはないのですから。ただし、国家が後ろ盾とならない以上制度を永続させられる保障はなくなりますし、営利企業が行う以上は保護される範囲即ち給付の範囲は狭められることになります。

 アメリカに公的健康保険制度がないことは周知の事実ですが、この他にも「国家の保護」「国家の責任」を回避する動きが顕著に見られています。例えば、アメリカ海軍では補給艦は軍人ではなく、民間人が主体となって運行しています。民間人乗組と言っても、空母部隊や揚陸艦部隊と一緒に前線で活動していますが、この民間人には軍人に与えられる社会保障はありません。陸上に至ってはもっと露骨で、輸送任務のみならず銃や戦車で武装した「民間軍事会社」「民間警備会社」が正規軍の行ってきた仕事を代替しています。高給ぶりが喧伝されていますが、彼らにも軍人に与えられる保障はありません。使い捨てするほうが「安上がり」ということです。

 こうした基準で日本の社会制度の「変革」を要求されるのがTPPなのです。社会保障制度はそれ単体で存在するものではなく、労働制度と密接な関連がある。そして労働制度も経済制度と無縁ではない。したがって、労働制度や経済制度をひっくり返すことを大前提にしている以上、社会保障制度が無傷でいられるわけもありません。そもそも、アメリカが狙っているのは日本の社会保障制度であると言えます。

 また、野田総理がいくら強弁しようが、交渉の過程で社会保障制度の聖域化が認められなかった場合、TPPの交渉の枠組みから離脱すると確約しているわけでもなく、そうなれば間違いなく日本の国際的信用は低下する。私はそのような場合にも信用が低下しても国が消滅するよりはマシですから離脱すべきたと思いますが、そのような危険を冒す必要はない。また、百歩譲って社会保障制度の聖域化が認められたとしても、その枠組みに入るかどうかを決めるのは最早日本ではありません。TPPの紛争解決条項に基づき、仲裁機関がアメリカに都合のいい判断をしてくれるようにちゃんと手配されています。

 日本が「ルール作りに参加すべき」という話をしている段階で、既にアメリカは「ルールを解釈する」仕組みまで掌握している。アメリカの手口は見事ですが、これでは日本に「勝ち目」などありません。

2011年11月 9日 (水)

玉虫色の民主党TPP参加案

 民主党のTPP参加案は「反対意見も多いこと」を配慮した上で、最終的な交渉参加を政府の意思に委ねると言うところで決着させるようです。恐らく、今日中に出来あがるでしょうが、一応反対派の面子を立てるものの最終的な決定は政府に全面的に委ねる、つまり事実上交渉参加を容認するということになりそうです。

 民主党としての意見は「玉虫色」の内容でまとめられるわけですが、これでは民主党は党として意思決定を放棄したと言われても仕方がない。今までの議論は、「ガス抜き」だったのでしょう。結局「TPP参加ありき」という結論は既に出ていたのではないかと思います。

 TPPの危険性については様々な指摘がなされています。のみならず、最大の問題は「自由」と「自己責任」を最上のものとするTPPへの参加が、最終的な意思決定者である国民に対してほとんどまともな説明をしないまま決定されようとしている事は重大な問題です。

 TPP参加によって、日本国民は自由権はともかく社会権をほぼ失い、政府の庇護を望めない状態に追い込まれます。つまり、「国民は勝手に生きていけ」ということになる。その根拠は「自由」と「自己責任」で、いかに経済的に困窮しようが自由と自己責任の結果であり自業自得であると切り捨てられることになります。自由と自己責任に帰結させる根拠は「自由な意思決定の結果」ということになっていますが、その意思決定も、意思決定に必要な情報も政府は国民にまともに開示していないのが実情で、参加しないことの不利益ばかりを喧伝している。

 このような場合、大抵は国民の大半に不利益を与えるものであったことが過去の教訓で、詳細な説明をしてしまったらまずいことは政府与党もよく御理解されているのではないでしょうか。

 かつて、明治時代の我が国には関税自主権がありませんでした。TPP参加は、対米関係において関税自主権を持たないことになり、この点では明治維新の状態に戻ることになる。そして、何を持って「TPP協定違反になるか」も事実上アメリカの影響下にある仲裁機関が判断することになり、これが国内法に優先される。こうなると、領事裁判権すなわち治外法権の復活にも見えてしまいます。

 それでも、明治時代の我が国は政府主導で富岡製糸場や官立八幡製鉄所など「殖産興業」という政策を取ることができました。しかし、TPP参加によってこのようなことは民業圧迫であり自由競争を妨害するということになりますから、行う事はできない。

 TPPはGATTやウルグアイ・ラウンドと同様に、国家の持つ権利を制約する協定です。条約はすべからく国家の持つ権利や自由を制約することで約束をするわけですが、TPPの内容では、権利の制約どころか自主性すら失う事になる。これはもう国家の自殺です。

 民主党は国家の自殺を止めるどころか、ロープをかけ踏み台まで用意したと言われても仕方がありません。

2011年11月 7日 (月)

TPPという幻想

 野田総理は10日にTPP交渉参加を正式表明するようです。12日にAPEC首脳会議があるのでその前に国民に説明をするということですが、これではAPECで会談するオバマ大統領への「お土産」だと言われても仕方がないでしょう。TPPについては参加する利点が全くないわけではありませんが、私は現在把握している情報から判断して、参加するべきではないと考えています。

 「TPPに参加すると関税自主権がなくなる。これは国際法違反だ」

 という指摘がありますが、恐らくこのようなことを言っている方は国際法をよく知らないのでしょう。大学院でも国際法の講義は閑古鳥が鳴いていましたから無理もありませんが。国際法上、国家は自殺する自由を有しています。つまり、国家の選択として他国の属国になることも、国家を解体することも自由なのです。したがって、関税自主権を失う事もまた可能ではあります。ただし、言うまでもなく国内産業を保護することはできなくなりますから、その先にあるものは何か、これは言うまでもありません。

 従来、国家は関税・補助金・社会保障制度等を使って国内産業を保護・育成するのが当たり前でした。しかし、TPP参加の場合これらの制度は軒並み「参入障壁」として排除されることになります。産業を興して雇用を生みそこで働く労働者を食わせていくと言う事はできない。残された手段は、生活保護によって最低限度の食を与えることくらいですが、生命体としてヒトを生かすことはできても、職業生活から生まれる誇りや尊厳、社会的な承認などは失われることになります。

 TPP賛成派は、早く参加して「ルール作り」に参加し、そのルールを日本に有利なように作ればいいと言っていますが、そのような都合のいい事が通るわけもありません。今から参加を決めたとしても、日本が参加する頃には既にルールは決まってしまっていると言われています。何より、戦後の日本には国際交渉でのルール作りにおいて、自国に有利なようなものを作りあげた実績は皆無です。最後は日本が負担を引き受けるかたちで交渉を妥結してしまった実績しかありません。国際交渉は妥結する義務はないのですが、何故か日本では国際会議を「イベント」と勘違いしている政治家が国政・地方政治ともに非常に多いのです。昨年行われたCOP10はいい例で、日本の負担によって妥結したのみならず、地元自治体は「名古屋議定書」という名前が入ったと言って喜んでいた始末でした。誘致した以上は妥結しなければならないと言っている人もいたくらいで、これでは交渉の際に足元を見られるのは当然です。どうせ最後は開催国と地元への面子から折れてくれるのが分かっているわけですから。こんな素晴らしい「実績」を持つ国がルール作りの際に主導的役割を果たして国益を守れたら、世界史上に例のない快挙となりましょう。制度設計から参画云々と言うのは、まさに幻想でしかありません。

 今のところ、TPPに猛反対しているのは農協です。そして、うまい具合に「農協」を既得権の巣窟として攻撃し、TPP参画を促す情報操作は一定の成功を収めていると言えます。確かに、農業問題は重要です。農業が破壊されれば日本の環境も破壊されます。食糧自給を根本的に放棄する道もないわけではありませんが、この場合安定的に食料を供給するためには軍事力と経済力が欠かせないものであることは歴史の教えるところであって、このどちらかでも欠く場合、国民を飢えさせることになります。そこまでのリスクを負う必要があるかは疑問です。確かに、農協が特権的地位を享受し農業以外の金融等で利益を挙げていることは確かですが、それだけを理由にしてTPP参加は既得権をぶっ壊すというイメージを持つことは大変危険です。

 アメリカと、財界が考えているのは本来我々が持っている「人権」を「既得権」と捉え、それを取り上げる事です。社会保障を受ける権利や労働法で保護される権利なども人権の一部ですが、これを「既得権」として取り上げるべきだという考え方があります。小泉内閣時代の経済財政諮問会議等では「年次有給休暇も既得権だから取り上げるべきだ」という議論がされていたそうです。解雇規制や社会保険制度などは「参入障壁」「国内企業を保護する過度な規制」とされる可能性がありますが、これらの制度が失われたらどのようなことになるか。これは簡単に想像できる事です。大企業にとっては支出も減り、簡単に解雇できるわけですから人件費を減らせる一方景気のいい時には非正規雇用を増やせるかもしれません。しかし、坂道を転がり落ちる時に一般市民を守ってくれる制度はなくなります。全てが「努力不足」として切り捨てられる。それでもいいという人は、左程多くはないでしょう。

 郵政民営化の時にも「公務員の既得権さえ打破されればチャンスが増える」という幻想を抱いていた若者は多かった。だからこそ、2005年の自民党の地滑り的大勝利となったわけですが、結果的には割を食っているのは当時の若者です。資本もなければ簡単に新しいビジネスに参入できるわけもありませんし、そもそも社会の中で能力を磨いていくチャンスを失う者が増えているわけですから、転落することはあっても浮上する機会など皆無です。

 政府は「社会保障制度には手を付けない」と言っていますが、そもそも労働制度と社会保障制度は密接不可分なものであり、また労働制度と産業も不可分の関係にあります。仮に社会保障制度のみ全く手をつけないことを容認されたとしても、労働制度を破壊してしまえば社会保障制度は有名無実となります。例えば、一億総非正規労働者化すれば社会保険料を負担できる人々そのものが激減し、国民皆保険制度を維持することはできなくなります。年金制度を破綻させることも左程難しいことではない。まさに、そうなったときに医療保険や私的年金というかたちで参入を狙っているのがアメリカの金融界なのです。

 アメリカでは実に5000万人の人々がまともな医療を受けられないでいます。オバマ大統領は大統領選挙で「健康保険」の導入を訴えましたが、当選後にはこの構想は潰された。反対派の大義名分は「成功者から失敗者に金をまわすことで努力をしなくなる」というもので、アメリカの医療保険業界も潤沢な政治献金をバックにして政治家に圧力を加えています。つまり、公的医療保険が存在しない方が「うまみがある」わけです。

 労働規制の緩和は、単に首切りが簡単になると言う問題だけではありません。外国人労働者と移民受入も進められることになります。日本人から仕事が奪われるだけでなく、国や地域社会も変容を免れないでしょう。当然、文化的摩擦や利害対立も深刻化する。その負担を自治体や自治会がするつもりがあるとは私には思われません。

 ちなみに、自治体としても入札等で「地元業者を優遇する」などと言う事は口が裂けても言えないことになります。まさに、自由競争の侵害となるからです。TPP参加の暁には、地域の小規模企業は自治体の入札においても海外の企業とコスト争いをすることになりますから、「地域に根差した経営」などやっていては生き残りはできないでしょう。特に特殊な技能を要しない単純作業のようなものは、根こそぎ持っていかれることになるでしょう。談合等でそれを妨害しようものなら、賠償請求もやってきます。ムラ社会では「そこまでしないだろう」と思う人も多いのですが、ムラ社会で生きていく必要のない多国籍企業やムラ社会そのものに価値を見出していない企業にとって、ムラ社会を敵に回したところで別段支障はないのですから。

 自由競争に幻想を抱いている人も多いのですが、現実はバラ色の未来ではありません。オバマ大統領は日本をTPPに参加させることによって、アメリカ国内で数万人の雇用を生み出させると豪語しています。今の経済情勢で、アメリカで数万人雇用を生むと言う事は、どこかで大量の失業者が出ると言う事です。そのターゲットに日本がされていると見ていいでしょう。

 TPPに参加したとしても、ごく一部の大企業を除いて、多くの国民にはメリットはないものと言わざるを得ません。TPPでの成功は幻想に過ぎないと私は考えています。

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